【令和5年度】東京都立入試 社会振り返り(大問5)



 今回は大問5の振り返りを行います。前回記事はこちら。問題は東京都が公開しており、ダウンロードをすることができます(こちらからどうぞ)。




【大問5】全体の難易度〈☆〉

・全体の所感
➝条件記述もあり、全体的に難易度が高い。特にえげつないのが問2。これは知識としてもかなり細かいので、多くの受験生が頭を抱えたことでしょう。


問1 経済活動の自由を保障する日本国憲法の条文(予想正答率70%)
➝経済活動の自由は大きく大別すれば、「居住選択の自由」「職業選択の自由」「財産権の保障」ですね。これが分かっていれば瞬殺問題。アは平等権の条文、イは法定手続きの保障なので身体の自由の条文、ウは教育の権利なので社会権の条文です。他の問題の難易度が高いのでここは確実に取っておきたいところ。


・問2 公共料金の種別(予想正答率20%)
これがすべての問題を見ても一番えげつない。正直、僕も悩んだくらい。学校の先生も驚く内容ではないでしょうか。公共料金には、①政府が決定するもの、②政府が認可するもの、③政府に届け出るもの、④地方公共団体が決定するものに大別されます。今回はこの種別を問う問題でした。


 資料を見ると「所管省庁の審議会分科会での審議」⇒「審議の報告」⇒「所管省庁の大臣が審議会に諮問」⇒「所管省庁の審議会が公共料金の改定に関する答申を公表」⇒「所管省庁の大臣が公共料金の改定に関する基準を告示」という流れで公共料金の改定がなされています。決定から告示まですべて政府が主導して決定していることが分かります。

※諮問…意見を求めること。


 ということはこれは①の「政府が決定するもの」であると判断できます。選択肢を見ると、アが「鉄道運賃」、イが「介護報酬」、ウが「公営水道料金」、エが「郵便料金(手紙・はがきなど)」となっています。このうち、政府が決定するものは「介護報酬」であるため、イが正解になります。ちなみにアの「鉄道運賃」は政府が認可するもの、ウの「公営水道料金」は地方公共団体が決定するもの、エの「郵便料金(手紙・はがきなど)」は政府に届け出るものになります。




 さて、なぜこの問題が難しいのか。理由はいくつかあります。


 まず、問われていることが細かいこと。教科書に確かに載っていますが、本文中ではなく欄外の資料として掲載されている内容です。もちろん、教科書に記載がある内容なので、出題できないわけではないですが、ここまでしっかり勉強していた受験生はそう多くないでしょう。


 次に問われている意図が理解しづらいこと。そもそも公共料金には種別があることを理解していた受験生がどれだけいたか。理解していたとしても、その種別が主に4つあることを知っていたか。ここが大きなハードルといえます。


 そしてそれに付随して資料から読み取るべきことを理解できたか。「政府が決定しているフロー」を読み取る必要があります。つまり、「決定」「認可」「届け出」の違いを理解できたかどうかですね。案外、「決定」と「認可」の違いを説明できない受験生も多いのではないでしょうか。


 最後に知識や読み取りなどを動員して政府が決定する公共料金が「介護報酬」であると理解できていたか。ゆえに正答率はかなり低いと考えられます。もちろん、分からずヤマカンで選んだ生徒もいるでしょうから20%を切るということはないでしょうが。


 こういった問題に対応するとしたら方法は二つ。一つは教科書の隅々まで読みこなすこと。そしてもう一つは勇気をもって捨てること。東京とは毎年一問はこういった難題を用意しています(去年はオタワの位置でしたね)。


 ただ日比谷、西、国立といった最難関公立高校を目指す受験生にとっては一問を落とすという意味の重要性が変わってきます。なにせこの問題を落とすということは5点を失うということですから。


 要は自分がどのレベルを目指すかによって取るべき問題も変わってくるということですね。もちろん、「日比谷を受ける生徒はこの問題を絶対取れ!!」ということではなく、この問題を失うとしたらどこで挽回するか戦略を立てる意味が重要だということです。




問3 国税と地方税の種別(予想正答率40%)
➝問2の難易度の陰に隠れているものの、こちらもまあまあ難しい。こちらも定番と言えば定番の出題ですが、チョイスがちょっとイジワル。本問では「法人税」と「固定資産税」の種別を判断する必要があります。ポイントは固定資産税が国税か地方税かということ。


 法人税は国税というのはほぼ常識だと思いますが、固定資産税はやや悩ましい。というのも相続税といった似たような税もありますから。


 結論、固定資産税は地方税です。覚えるポイントは土地と結びつきがあるかですね。地方税の代表格は「住民税」。住所は土地に結びついているものですね。そして「自動車税」。駐車場という土地が必要ですね。「固定資産税」って何にかかる税かといえば、土地や家屋にかかる税なのです。よって地方税だと判断できるという寸法です。


 難しいと言っても今回は直接税と間接税の区別まではさせてきませんでしたので、まだ戦える。地方税かつ間接税である「ゴルフ場利用税」なんか出してきたらえげつなかったが。


・問4 改正会社法による取締役会の変化(予想正答率30%)
➝さて最後に記述問題が出てきましたね。問2と問3でダメージを受けた中で記述問題でとどめを刺すということでしょうか。


 条件記述のポイントは「何を書くべきか」を把握すること。まずは問われていることを理解しましょう。問われていることは「2014年に改正された会社法によりもたらされた取締役会の変化」についてです。続いて条件を確認すると「Ⅰ~Ⅲの資料を活用」「社外取締役の役割及び取締役会における社外取締役の人数に着目して」とあります。


 では順番に整理していきましょう。まずは「2014年に改正された会社法によりもたらされた取締役会の変化」について。Ⅲの資料に注目すると2014年を境に「社外取締役の人数を2人以上にした企業が増えた」ことが読み取れます。これは「社外取締役の役割及び取締役会における社外取締役の人数に着目して」という条件に一部該当していますし、書くべき内容の一つですね。


 そのまま条件の一部である「社外取締役の役割」について読み取っていきましょう。Ⅰの資料に注目すると、「現行の会社法では、外部の意見を取り入れる仕組を備える適正な企業統治を実現するシステムが担保されていない」とあります。つまり、「外部の意見を取り入れて適正な企業統治を実現する」ために会社法を改正したということが読み取れます。これが書くべき二つ目の内容ですね。


 最後にⅡの資料に注目しましょう。そうすると、「自社の取締役等及びその配偶者の近親者等でないことを追加する」という改正された会社法の趣旨が見えてきました。


 ということで読み取った内容を整理すると以下の通りです。

① 社外取締役の人数を2人以上にした企業が増えた
② 外部の意見を取り入れて適正な企業統治を実現するのが社外取締役の役割である
③ 改正会社法では、自社の関係者ではない人物を社外取締役にする基準を定めた



 よって個人的な模範解答は以下の通りになります。


 外部の意見を取り入れて適正な企業統治を実現するため、自社の関係者ではない人物を社外取締役にする基準を定めたことで社外取締役の人数を2人以上にした企業が増えた。


 都の教育委員会が発表した模範解答だとⅡの資料読み取りが甘いんですよね。おそらく「社外取締役の要件が追加され」の部分がそうなのでしょうが。



 大問6の解説はこちら。ぜひお読みください。